デニム好きな人なら少なからず気にしている人がいると思われる、ポリウレタン混紡デニムの経年劣化問題。

ポリウレタンはその性質上、製造から2〜3年で劣化してしまい、製品としての寿命は綿などの天然繊維に比べて短いとされています。

そこで今回は10年以上前に購入したストレッチデニムをもとに、ポリウレタンの経年劣化の実際について検証・考察してみました。

ではまず、ポリウレタンという素材とファッションアイテムに使われる理由からお話させて頂きたいと思います。

ポリウレタンという素材の特徴

ポリウレタンという素材には軽量で伸縮性、耐摩耗性、衝撃緩衝(クッション)性に優れるが、熱に弱く空気中の水分や紫外線、微生物などによって劣化が生じ易いという特徴があります。

J-STAGEで公開されている論文「ポリウレタンの劣化と安定化」によると、ポリウレタンの劣化を引き起こす主因子として

・光

・熱

・酸素

・水分

・微生物

が挙げられ、

その中でも他の素材に比べて特に熱に弱く60〜80℃位を境に劣化が促進されるとの事。通常使用では問題になることはないでしょうが、ポリウレタンはアイロンや乾燥機などの使用は控えるべき素材ということになります。

この中で最も有名なのが、主因子の内、酸素と水分が関係する加水分解です。次に意外と知られてないけど重要なのが、微生物の酵素による酵素分解反応ではないでしょうか。

ポリウレタンは合成高分子の中でも微生物によって分解されやすいという特徴があるようです。

加水分解が生じにくいポリウレタンもある

ポリウレタンの劣化と安定化」によると、ポリウレタンにもエーテル系ポリウレタンとエステル系ポリウレタンの2種類があり、エーテル系ポリウレタンは特異的な条件下でないと加水分解を生じないという特徴を持つとのこと。

その特異的な条件とは65℃以上の環境下におくことの様。やはりポリウレタンはエステル系エーテル系を問わず、熱に弱いということのようです。

エステル系とエーテル系の構造の違いについて詳しく言及してある論文がGoogle Patentsにありました。

ポリウレタンは、主鎖中にウレタン結合(−NHCOO−)を有する高分子化合物の総称であり、ポリオールとポリイソシアネートとの付加重合により合成されるものである。ポリウレタンは、ポリオールの種類によってエステル型ポリウレタンとエーテル型ポリウレタンとに大別される。

 「ポリウレタン分解能を有する微生物及びポリウレタン分解方法」より引用

加水分解のメカニズムについて

加水分解については、ポリウレタン製品について調べたことのある方なら目にしたことも多いかと思いますが、ポリウレタンが製造された時点から劣化すると言われている所以と言ってもいいと思います。

加水分解って、よく目にする文字ではあるんですが、そのメカニズムとなると意外と複雑なようです(物理化学が得意な人には簡単かもしれませんが)。

かなり端折って説明すると、エステル系ポリウレタンはエステル結合という自然界にも存在する結合で高分子化合物を形成していて、大気中の水分と反応することで

R-COO-R’ + H2O → R-COOH + HO-R’

このように、エステル結合がカルボン酸とアルコールに分解されます。この反応が進むことで分子量が低下し、物性の低下、果ては経年劣化に繋がるということのようです。

また、エーテル系ポリウレタンのエーテル結合は自然界にほぼ存在しないため、加水分解も(理論上は)生じないとのこと。

エーテル系ポリウレタンは微生物に分解されない

また、エーテル系ポリウレタンは加水分解だけでなく、微生物による分解もされないという性質も持っています。

「ポリウレタン分解能を有する微生物及びポリウレタン分解方法」ではエーテル系ポリウレタンが微生物に酵素分解されないことに言及しています。

ポリウレタンの生分解処理としては、一般に、エステル型ポリウレタンがエーテル型ポリウレタンと比較して容易に分解されうることから、エステル型ポリウレタンを対象として所定の菌を用いて行われている。

例えば、特許文献1〜3には、細菌が生産する酵素(エステラーゼ)が、エステル型ポリウレタンのエステル結合を切断し、分解する技術(微生物、酵素)が開示されている。また特許文献4には、プラスチックの生分解性簡易測定法として、ラッカーゼを含む酵素を利用する方法が開示されている。

一方、エーテル型ポリウレタンは、分子中にエーテル結合やウレタン結合といった自然界にはあまり存在していない結合を有しているため、難分解性であることが知られている。

本発明者は、エーテル型ポリウレタンを分解処理するための方法として、酵素や化学物質を用いた反応が有効であることを見出している(特許文献5〜7参照)。しかしながら、生分解処理に使用可能な、エーテル型ポリウレタンを効率的に分解する微生物は報告されていない。

 「ポリウレタン分解能を有する微生物及びポリウレタン分解方法」より引用

ここで言う「生分解処理」は不要になったポリウレタンを処分する際の手段の一つとして挙げられていますが、これは微生物による酵素反応による分解と同義と捉えて良いかと思います。

エーテル系ポリウレタンは経年劣化しにくい

以上を踏まえると、エーテル系ポリウレタン製品は光が入らず、高温環境下にならない場所で保管している限り、経年劣化がほぼ生じないと考えることができます。

言い換えると、エーテル系ポリウレタンは熱には弱いが一般的なポリウレタン製品に言われている、「製造された瞬間から劣化が始まる」「保管しているだけで劣化が進む」という特性は持ち合わせていないとも考えられます(私が調べた上での考察なので、もし詳しい方がいれば教えて頂きたいです)。

そして、一般的に新品を保管しているだけでも経年劣化すると言われているポリウレタン製品はエステル系PUを使用していたことが考えられます。

ただし、熱に弱いという性質はエーテル系PUも同様なので着用に伴う摩擦熱や乾燥機の使用による劣化は綿100%のデニムに比べ早いと考えた方が良いと思います。

また、ストレッチデニムの着用に伴う膝抜けは、着用期間に左右されるというよりは長時間正座をした時など、部分的に大きく負荷が加わった際に顕著に現れるので、経年劣化というよりは素材としての機械的強度の問題になると考えられます。

エステル系とエーテル系の使い分け

エステル系の特徴としては、加水分解は生じるが、機械的強度が高く、一般的に合皮や登山靴のソールなどに使われているポリウレタンはエステル系のようです。服以外だと自動車部品や電化製品などに用いられています。

対してエーテル系は耐摩耗性・耐老化性・耐オゾン性などに優れるとのこと。使用用途は基本的に同じようですが、服への使用に言及している文献は見つかりませんでした。

デニムにポリウレタンが使われている理由

ポリウレタンは靴のクッション性を高めるためにソールに使用したり、リュックの浸水を防ぐために内側にポリウレタンコーティングを施したり、革製品に似せた合成皮革などに使用されています。

デニムに使われる場合は、そのほとんどがストレッチ性を持たせるために綿に数%だけ混紡されています。中にはデザインとして表面にポリウレタンコーティングを施したものもありますが、私自身、手に取って確認したことがないので今回はスルーします。

トレンドがコンフォータブルな方向にシフトしていることに関係しているのか、一昔前に比べてポリウレタン混紡のデニムって本当に増えたと思います。

確かにタイトなデニムはストレッチがないとかなり穿きづらいので、スキニーデニムが一般化した今、ポリウレタンという素材が重宝されているのは必然的なのかもしれません。

個人的なポリウレタン製品の印象

私は以前、KELTYとEASTPAKのデイパックを所有していましたが、ポリウレタンコーティングによる防水加工が施してあった様で、双方とも購入から約5年で内側のポリウレタンコーティングが剥がれ始めました。

コーティングが剥がれ始めると荷物に劣化したポリウレタンがくっついてしまい、使用に支障が出てきます。重曹を使用してコーティングを全て剥がす方法もあるようですが、あまり現実的ではありません。

外側の生地は問題無いのに内側はボロボロという状況を目にしてしまうと、個人的には今後、ポリウレタンコーティングが施してあるリュックを手に取ることは無いですね。

高温環境下に置いた記憶はないので、これらのバックパックに内面に施されているコーティングはエステル系ポリウレタンだったと考えられます。

そもそもタウンユースで使用するデイパックに防水性ってあまり必要ないと思うので、個人的にはポリウレタンコーティングは止めて頂きたいですね。

合皮に関しては物心がついてからは意識的に購入を避けているので、あくまで印象ですが、コーティングなどのポリウレタン製品より早く寿命が来ることが多いと感じています。



ポリウレタン混紡デニムはどうなのか

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

今回は私が10年以上前から所有しているデニムをもとに、「ポリウレタン混紡デニムは保管しているだけで経年劣化が生じるのか」という視点から検証してみたいと思います。

ブランドはFACTOTUMで購入時期は2006AW〜2007SS。素材は綿97%ポリウレタン3%。色はブラックで形はブーツカット。

着用時間は100時間未満かと思います。リジッドで購入後2回ほど洗濯しています。

ファクトタムのデニムは好きなんですが、ワンウォッシュ後の色味があまり好きになれなかったこと、タイト&ブーツカットの気分ではなくなったことが重なり、殆ど穿く機会がなく長年、我が家のタンスの肥やしになっていました。

では実際に見て検証してみたいと思います。

手にとって見た感覚では、10年前とほぼ変わっていないと思います。

はき心地も同様。ストレッチも効いています。

 

裾の破れに関しては当時若気の至りで腰穿きで穿いてしまっていたためで、劣化によるものではありません。

 

生地のアップ。顕著な劣化は見られません。

結論としては、ポリウレタンが劣化した際に見られるベタつきや異臭などの諸症状は確認できませんでした。

なぜ10年前のポリウレタン製品に経年劣化が生じていないのか

考えられる理由としては、

①長年、湿度と温度変化の少ないクローゼットの中に収納しており、着用期間も短い。

②ファクトタムのデニムにエーテル系ポリウレタンの糸が使用されていた。

③ポリウレタンの混紡率が3%と低いため、加水分解によって経年劣化していても気づかない。

のいずれか、またはいくつかの要素が複合的に関わっていると考えられます。ただ、③の場合だと加水分解によってストレッチ性がほとんど失われ、パンツのゴム紐の様に生地が伸びきった様に変化すると推測されるので、個人的には加水分解自体が生じて無いのではと考えています。

もし今回のケースのように加水分解による経年劣化が生じないなら、ポリウレタン混のヴィンテージデニムが産まれる可能性もゼロではないのかな、と思ったりします。

ただこれからコンスタントに穿き続けた結果、どうなるのかは不明なので、気が向いた時に家着として穿いてみて変化・劣化があればまた報告させて頂きたいと思います。

ドライクリーニングが必要なポリウレタン製品には注意が必要

今回の検証の結果、デニムに関してはポリウレタンが入っていても保管による経年劣化は意外と生じないということが分かりました。

しかし、コートやスラックスなどドライクリーニングが必要なアイテムにポリウレタンが使われている場合、クリーニングの過程で、有機溶剤などの薬品使用や、仕上げでプレスやスチームなど熱を加える工程があるので、エーテル系・エステル系を問わずポリウレタンの劣化は避けられないと考えられます。

東京都クリーニング生活衛生同業組合がサイト上でポリウレタン素材の弱点に対する啓発を行っているのも、クリーニングによってポリウレタンの劣化が早まってしまい、トラブルが多発したからかもしれません。

個人的にもポリウレタンが劣化する理屈を知った上で、ドライクリーニングに出すのはおすすめできないです。

デニムやシャツであれば家で洗濯出来ますけど、ウールやキュプラが使われたコートやスラックスとなると水洗いは難しいので、クリーニングが必要なポリウレタン混の洋服を購入する場合は消耗品としてある程度、割り切る必要があると思います。

ポリウレタン製品に限らず、気に入った洋服を少しでも長く着用するには素材の特性を理解し、適切な方法で洗濯やクリーニングなどのケアを行う必要があるということですね。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

2 件のコメント

    • コメントありがとうございます。
      マイペースですが今後も記事を上げていきますので、よろしくお願いします。

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