迷盤であり名盤 AIRの1stアルバム 『WEAR off』について語る

AIRの1stアルバム『WEAR OFF』は、1996年にリリースされた作品でありながら、どこか時代から切り離されたような空気を持っている。

UKロック、オルタナ、ダブ、サイケデリア。
そうした要素を吸収しながらも、邦ロックとして独特の浮遊感を獲得していた。

派手に語られる作品ではないけれど、一度深くハマると長く人生に残るアルバムだと思っている。

と言うわけで、今回は大好きなアーティストであるAIRの個人的に3番目に好きなアルバムである『WEAR off』について、

全曲レビューという形で記事を書いてようと思う。

 

目次

目次

WEAR offとはどんなアルバムか

スパイラルライフの活動休止後の1996年にミニアルバム『AIR』を発売。

リリースライブを経た後に満を持して同年11月に発表されたのが今回のテーマである1stアルバム『WEAR off』。

この作品を一言で表すなら”初期衝動”

という言葉以外に思いつかない。

 

AIR以前の車谷浩司



AIR以前の車谷氏についても触れておく。

BAKU時代

車谷浩司、谷口宗一、加藤英幸、阿部浩之の4人によって1989年に結成。

結成当時は高校3年生であった。

1990年にメジャーデビューしているので車谷氏は19歳になる年から音楽業界にいることになる。

そして1992年に解散。

当時はそれなりに人気であったようでネット上では今でも復活の声が散見される。

ジャンルは今の価値観で言う所の青春パンク的な日本語パンクといった感じの印象を受ける。

2000年代初頭の青春パンクブームのバンドは許容できるし、

今でもGOING STEADY等を聴きたくなるバンドはあるが、BAKU は個人的には苦手な部類に入る。

本人としては音楽業界に名を売るための戦略的なデビュー・解散であった模様。

 

 

BAKUに関しては個人的な熱量の問題でここまで。

 

SPIRAL LIFE時代

BAKU解散後の翌1993年に石田小吉とSpiral Lifeを結成。

スパイラルライフは、ネオアコ、UKロック、渋谷系、ギターポップ。
そうした90年代カルチャーの空気を吸い込みながらも、単なる“おしゃれ系のバンド”では言い表せない多様性を内包しているバンドであったと思う。

それは車谷氏と共にコンポーザーとしての側面もあった石田小吉によるものも大きいであろう。

スパイラルライフは初期AIRと双璧を成すフェイバリットなユニットなので、いずれ記事にしたいと思う。

お互いの方向性にすれ違いが生じるようなり、車谷氏の主導で1996年にSpiral Lifeは活動を休止する。

 

AIRもそうだが、Spiral Lifeに関してはいつかの復活を待望している。

車谷氏のやりたかったギターロックだけでなく、石田小吉氏の得意とするエレクトロロック方面に傾倒するSpiral Lifeも聴いてみたかった。

個人的には”レディオヘッドのKIDA以降にSpiral Lifeが存在していたら”といった妄想を勝手にしている。

絶対に売れることはないだろうが、少しダークでディープなエレクトロニカ路線とか最高である。

『WEAR off』全曲レビュー

ここから本題である、

『WEAR off』全曲レビューをしていきたい。

尚、一部の曲の元ネタに関しては古くから車谷氏の情報をまとめておられるブログPSYCHEDELIC BUS様の記事を参考にさせていただきました。



1 RAINBOW

イントロから強烈なハウリング。

その後に続くノイジーで不協和音的なピアノと雄叫び的なシャウトが印象的な曲。

チャットGPT曰く、曲の定義は”時間の流れを持つ音の構造物”とのこと。

そこから鑑みるとAIRのRAINBOWは、もはや曲の体を成していない音の集合体を録音したものということになるだろう。

狂気的な試みではあるが、そこまで振り切れていないであろう車谷氏が、狂気を装い無理をしている感が若干、共感性羞恥を感じさせる。

スパイラルライフ後期のインタビューを読んでいると、インストで実験的な曲の構想は以前からあったようなので、それを形にしたと言えるかのかもしれない。

とにもかくにも、ポリスターというメジャー系のレーベルでここまでやった功績は讃えられるべきだと思う。

 

2 UNDER THE SUN

ロックファンであればイントロを聴くだけで眉間に皺を寄せる人は一定数いるであろう衝撃的な一曲。

そう、NIRVANAのあの曲のイントロとあまりに酷似している。

当時の車谷氏はファッションからパフォーマンスまでカートコバーンの影響を受けていて、それを隠す素振りもなかったと思われる。

個人的には勿論、こっちの方が好きなのではあるが、オマージュ寄りのパクリであるのは間違いなく、音楽的にはアカンやろという一曲。

もう一曲元ネタがあり、それがUSオルタナ先駆け的存在であるFaith No Moreの『epic』という曲。

epicからはサビのメロディーラインと一部ギターリフを引用していると思われる。

個人的にはこちらに関してはオマージュとして許容できる。

というわけで、UNDER THE SUNはScentless ApprenticeとepicをくっつけてAIRがアレンジした一曲と考えると納得できる。

気がする。

 

3  COMMUNICATION

この辺から当時のAIRのオリジナリティの片鱗が垣間見えてくる。

ハウリングをバックに、車谷氏の拙いながらもどこかジャジーなピアノと、カートの死についての車谷氏の攻撃的なラップに乗せて歌い上げており、非常に格好良い。

AIRの曲全般に言えることであるが、本人がジャンルを超えて自由な曲作りをしてもそこまでチープにならないのは、本人の多才さだけでなく渡辺等と佐野康夫という、ぽっと出のバンドでは通常考えられない技術を持ったプレイヤーを擁していることも要因だろう。

この曲のようにギターを弾かない車谷浩司も、もう少し見たかった気はする。

4 NO KIDDING?

COMMUNICATIONから一転、力の抜けた洒脱なラップ調の曲となっている。

変則チューニングのギターによる独特なコード感が心地良い。

少ない音数の中に響くウッドベースも絶妙で、生音感が強い一曲。

 

5 7&4

イントロから歪んだウッドベースが冴え渡るミドルテンポの一曲。

7と4の読み方の違いについてのたわいのない内容の歌詞であるが、どこか洒落てるのが初期AIRならでは。

 

6 SOMEHOW

本アルバムではHAIR DOに次ぐ個人的名曲。

元ネタはサイプレス・ヒルの『Hits from the Bong』という曲のトラックで、ギターリフだけでなくドラムのビート感も酷似している。

LPがこのアルバム本来の魅力といった主旨の発言を本人がしている動画をYOUTUBEで見たことがあるが、SOMEHOWはまさにその最たる一曲。

デジタル音源でもレコードプレイヤーで再生したようなエフェクトがかけられており、微かに聞こえるグリッチノイズが心地良い。

個人的にはサビの車谷氏のファルセットのハモリが心地よく、大好きな一曲。

数年前までは音楽フェスGG(確か2005年辺り)でのライブ映像がYOUTUBE上にあったが、残念ながら現在は見れなくなっている。

ライブではアコースティックギターで演奏するスタイルであった模様。

 

7 DOUBT

お手本的なグランジ曲。

NIRVANAのライブ音源のようなノイジーでライブ感のある一曲。

説明不要かとは思うが、元ネタはNIRVANA。

 

8 HAIR DO

AIRのキャリアを通しての代表作とも言える一曲。

こちらはこれまでの前曲DOUBTに見られたハウリングによるノイジーさではなく、フィードバックを主体とした美しいノイズに溢れている。

ドラムとベースは本人による打ち込みとなっているが、音的にはクラフト感を感じさせない隙のない作りとなっているのも最高。

美しくノイジーな伴奏に線の細いボーカル+程良くポップなメロディと言う、まさにお手本的なシューゲイザーであり、幾多のマイブラフォロワーの中でもこの曲を超えるシューゲイザーは存在しないと言い切れる(あくまで個人的に)。

なかでも永遠に続くかのように錯覚させるシークエンスのフレーズに乗せて、ノイジーながらも美しいE♭ダイアトニックコードの順次進行が大好きで、1000回以上は確実に聴いていると思うが、聴き飽きる気配すら感じない。

余談ですが、私はダイアトニックコードが順に1234と続く順次進行をドレミファ進行と勝手に名付けている。

理由としてはキー音から順にルート音(ベースの音を聴く方が分かりやすい)を追っていくとド〜レ〜ミ〜ファ〜と音が流れていくのが感じられるから。

実際にはキーがCでない限りドレミファではないが、絶対音感またはそれに近い正確な音階を聴いて理解できる人でなければ、ベースの音がドレミファと流れて聞こえると思う。

丸サ進行やカノン進行とまではいかないまでも、比較的キャッチーな進行だと思っているので、いずれは同進行が用いられている曲をまとめてみたいと考えている。

ちなみにHAIR DOの元ネタは

イントロ:My Bloody Valentine『i only said』

サビ:Tribe 『Payphone』

と言われているがイントロのマイブラに関してはオマージュの範疇であると考える。

理由として先ほどのコード進行の話になる。

i only saidのイントロではストリングスに乗せてダイアトニックコード(おそらく)が125と進行していくが、HAIR DOでは1234と続く順次進行であるため、なんとなく似てはいるがそもそもコード進行が違う。

シークエンスのフレーズとストリングスのフレーズも似てはいるが若干違う。

似てはいるが。

Tribeの『Payphone』に関してはそのまんまであるため、何も言えることはない。

 

9 AIR(Re-mixed by audio active)

デビューミニアルバムのA・I・Rからのリミックス曲。

エレクトロニックロックでより暴力的になったAIRという印象の一曲である。

個人的にはそれほど思い入れはないが、アングラなイメージ(大⚪︎の解放や讃歌がテーマ?作品をリリースしているし)の強いaudio activeのリミックスという点は興味深い。

アイドルパンク/渋谷系バンド出身ということもあり、あくまでメジャー系の路線であった車谷氏とどこに接点があったのか不明である。

以降、SPAWN関連作品でもコラボレーションしていることもあり、単回ではないつながりがあった事は確かである。

 

なぜ今『WEAR off』なのか

以上、AIRの衝撃的とも言える1stアルバム『WEAR off』について私的な全曲レビューをしてみた。

数多くの元ネタが内包されているため、それを許容できない人にとっては間違いなく迷盤であるが、許容できる人であれば名盤になり得る衝撃的な作品であることは間違いない。

初期のAIRは車谷浩司氏のセルフプロデュース色が強いがその中でも本作は特に顕著で、通常なら商業ベースに乗せるにあたり平均化されそうな曲であっても、とにかく尖っている。

まさに初期衝動の塊である。

 

 

これこそが当アルバムの本質であり、尊さであると思っている。

インターネットの普及で元ネタを全面に押し出した曲作りは御法度ととも言える現代。

そして、AIによる分析が進み、尖った物作りをしようとしても一般層に受けるように最適化されてしまう可能性もあり、

ここまで実験的かつ個がやりたいことを全面に押し出した音楽が今後リリースされることは考えにくい。

 

才能に恵まれ、良くも悪くも自らの才能を過信していた1人の青年の初期衝動の観察。

そうした資料的な側面においても、AIRの『WEAR off』は今聴くべき名(迷)盤だ。

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